研究概要 |
本研究では,まず,歯科用チタンインプラントの骨適合性および上皮付着性向上のために,チタンインプラント表面に細胞接着タンパク質を固定化する手法を確立することを目的とした.その結果,トレシルクロリド(CF_3CH_2SO_2Cl)でチタン表面の塩基性水酸基を活性化させることによって,細胞接着タンパク質が簡便に固定化されることを見出した.また,タンパク質の固定化にチタンの酸化状態の違いはほとんど影響しないことも判明した.トレシルクロリドによるチタン表面の塩基性水酸基の活性化およびタンパク質の固定化は赤外分光分析,X線光電子分光分析などの表面分析法によって確認した.また,水晶発振子マイクロバランス法によってフィブロネクチンの吸着を定量的に評価したところ,トレシルクロリド処理によってフィブロネクチンの吸着量が有意に増加しており,トレシルクロリド法がチタンへのタンパク質固定化に有効であることが判明した.また,半経験的分子起動計算からトレシルクロリド処理がフロンティア軌道エネルギーに影響することも示唆された.トレシルクロリド法で接着タンパク質を固定化したチタン上でのヒト歯肉由来線維芽細胞の初期付着について検討したところ,細胞接着タンパク質であるコラーゲン固定化チタンでは付着細胞数が有意に向上することを見出した. 以上,トレシルクロリド法はチタン表面への細胞接着タンパク質固定化法として非常に有効であり,歯科用チタンインプラントの新規な表面改質法として今後有望であることが明らかとなった.
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