研究概要 |
口腔扁平苔癬(以下OLP)は,口腔粘膜疾患の中でも比較的頻度が高い難治性疾患である.近年,胃粘膜上皮間ギャップ結合の強化作用を有するマレイン酸イルソグラジンの使用によるOLPの改善が報告されてきている.ギャップ結合を介する細胞間の双方向物質輸送は細胞間コミュニケーションと呼ばれ,さまざまな生理的役割を担っている.ギャップ結合の構成蛋白であるコネキシンは,種々の臓器,疾患で発現パターンが異なり,胃腸粘膜,肝臓等の報告はあるが,口腔粘膜における報告は少ない.また,発癌過程における細胞間コミュニケーションの機能低下やギャップ結合発現量の減少等も報告されている.そこでOLPの上皮におけるギャップ結合に着目し,コネキシン発現と増殖活性について免疫組織化学的に検討した.対象は,当科を受診し,臨床的・病理組織学的にOLPと診断され,生検時に凍結標本が得られた23例30病変とした.対照として,埋伏歯抜歯時または開窓術時に採取しえた臨床的に炎症所見のない口腔粘膜25例を使用した.OLP,対照両群において,コネキシン26,コネキシン32,コネキシン43,Ki67抗原に対する一次抗体を用い,コネキシンについて蛍光抗体法(間接法),Ki67抗原について酵素抗体法(間接法)にて染色した.その結果,両群ともに上皮にコネキシン32の発現はほとんど認められず,対照群と比較してOLP群のコネキシン26,43の発現が減弱する傾向がみられた.コネキシン26,43の染色程度をびらん部を除いた染色範囲で4段階に分けて点数評価(Cx score)したところ,OLPと対照群の比較で統計学的に有意差が認められた.Ki67については,OLP上皮のKi67陽性細胞率が正常粘膜より有意に高かった.Cx scoreとOLPの臨床視診型,リンパ球浸潤程度,上皮性異形成,Ki67陽性細胞率との間に明らかな関連は認められなかった.
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