研究概要 |
今回われわれは、近赤外光酸素モニター(Near Infrared Spectroscopy:以下NIRS)を用いて、臨床上精神鎮静法で用いられる吸入笑気濃度および酸素濃度における脳内酸素環境変化さらに、臨床上、歯科治療時に用いられる静脈内鎮静法下における脳内酸素環境変化について検討した。方法は、水平仰臥位にてフェイスマスクおよび各種モニターのプローブを装着し安静状態を得た後、混合ガス(笑気+酸素:N20群、窒素+酸素:N2群)を順次フェイスマスクより吸入させた研究とプロポフォール(1mg/Kg、2mg/Kg、3mg/Kg)・ミダゾラム(0.03,0.05,0.07mg/kg)を静脈内投与し、その間、連続的に各種パラメーターを測定し、比較検討した。 (結果)吸入鎮静法:1.SBP, DBPは,投与開始後から徐々に低下し測定開始10分後で最小値を示し,以後,明らかな経時的変化は認められなかった.2.ETC02は、測定開始6分後から有意に増加しはじめ,測定開始30分後に最大値を示した.また,測定開始35分より低下しはじめ,測定開始40分では,測定開始5分の状態にまで復した.3.Sp02は、測定開始6分後から有意に低下しはじめ,測定開始40分後に最小値を示した.また,測定開始40分から増加しはじめ,測定開始45分では,測定開始5分の状態にまで復した.4.Hb02は、測定開始5〜17分後まで増加傾向を認め,測定開始18〜38分後までは低下傾向を示した.測定開始39分後から増加傾向を示し,測定開始36分後に最大値を示し,以降,漸減傾向を認めた.5.Total Hbは、測定開始3〜16分後までは,増加傾向を認め,測定開始17〜34分後までは低下傾向を示した.測定開始35分後から増加傾向を示し,測定開始46分後に最大値を示し,以降,漸減傾向を認めた.6.ΔCytaa3は、多少の増減は認められるものの明らかな経時的変動は認められなかった.静脈内鎮静法:1.SBP、DBP、HRは、N20群、N2群とも明らかな経時的変動はなかった。2.ETC02、TcPC02は、両群とも混合ガス吸入中止後の空気吸入時、経時的に増加する傾向がみられた。3.Hb02は、笑気吸入後の空気呼吸時に空気吸入前と比較して、N20群で有意な低下が認められた。4.ΔCytaa3は、両群とも明らかな経時的変動はみられなかった。 これらの結果より、笑気吸入鎮静施行時に笑気吸入中止後直ちに空気吸入により、血中の酸素分圧が速やかに低下するが、そのさいの脳内酸素環境は良好に保たれていると考えられた。また、プロポフォールによる静脈内鎮静法は、血中の酸素分圧の低下が認められるが、そのさいも脳内酸素環境は良好に保たれていると考えられた。
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