研究概要 |
I.マウスにおける同系及び異系母体間で受精卵移植を行い,子宮内に着床,成長した胎仔における先天異常発生率を口唇口蓋裂(CL/P),心血管系,胸腺の異常について検討した結果,以下の諸点が確認された. 1.先天異常発生率の高い系の受精卵でも,先天異常発生の低い系の母体に受精卵移植することによりCL/P,心血管系,胸腺の異常発生が抑制された. 2.先天異常が自然発生しない系の遺伝子を持つ受精卵は,先天異常の発生率の高い系の母体に受精卵移植を行っても先天異常は発生しなかった. 3.多発家系内の多発奇形においても,多因子遺伝病が環境要因の変化により抑制可能であることが示唆された. II.A/J系マウスに,妊娠2週間前から妊娠13日目まではヒト成人1日0.8mg相当量,妊娠14日目から18日目までは0.4mg相当量となるように濃度調整した葉酸を経口投与し,胎仔の体重とCL/Pの発生に与える影響について検討し,以下の結果を得た. 1.死亡吸収率は,対照群12.3%,実験群(0.8mg投与群)10.2%と両者に有意差はなかった. 2.胎仔の平均体重は,10mg投与群と1mg投与群では対照群と比べて有意に減少したのに対し,0.8mg投与群では対照群との間に有意差を認めず,減少傾向を示さなかった, 3.CP単独例の発生率は,10mg投与群と1mg投与群で対照群と比べて有意な減少が認められたのに対し,0.8mg投与群では抑制効果が示されなかった. 4.CL/Pの発生率は,10mg投与群,1mg投与群,0.8mg投与群のすべてで,対照群との間に有意差を認めず,減少傾向を示さなかった. これらの結果から,妊娠前から器官形成期までは0.8mg相当量,胎仔発育期では0.4mg相当量の葉酸の投与により,胎仔の体重の減少を防ぐことができた.今後さらに検討することで,CL/Pの予防効果も期待できると考えられる.
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