研究概要 |
頭蓋,上顎を含む中顔面,および下顎における先天性形成異常を示す疾患として,クルーゾン症候群やアペール症候群を含む頭蓋骨縫合早期癒合症の他に,トリーチャー・コリン症候群などがある。これらの疾患のうちいくつかは,既にその原因遺伝子が同定されている。合併症のない単なる舟状頭や斜頭においても,またクルーゾン症候群やアペール症候群などの症候群性頭蓋骨縫合早期癒合症においても線維芽細胞増殖因子受容体2(FGFR2)遺伝子の変異が同定されている。特に,アペール症候群においては,特異的な2つの変異が患者全体の95%を占めており,この疾患の変異の特異性は東洋人においても同様な傾向を認める。われわれは,FGFR2のアペール症候群型の変異(S252W)を持つ患者の指骨を仮骨延長する際に、早期骨形成を認めた。この臨床的な変化は,アペール症候群患者に由来する骨芽細胞(S252W変異)は,対照群と比較して,骨芽細胞分化マーカー遺伝子の発現の増加や石灰化能の亢進を示したという基礎的な培養実験の結果から裏付けされる。 このようにFGFR2遺伝子は,器官発生期のみならず出生後も骨組織の形成に深く関与しているため,骨形成能に強く影響される仮骨形成術などの治療においては,FGFR2遺伝子変異の有無も検討した上で,それぞれの患者に最も適合した治療のプロトコールを作成することが大切である。また,将来的にはFGFR2を介したシグナル伝達系を刺激することにより骨形成を促進させる治療の開発も待たれる。
|