研究概要 |
本研究は口唇口蓋裂児を持つ母親に対する授乳ケアの開発である.授乳の実際を明らかにする目的で,口唇口蓋裂児をもつ母親33人から聞き取り調査を行い,ビン哺乳時の顔面筋の動きを知るためにビデオカメラで授乳の撮影を行った.聞き取りでは以下のことが明らかになった.1.分娩直後に直接母乳ができた母親は36.4%であった.2.初回授乳を生後1日目以内に行った母親は42.3%であった.3.患児の使用乳首は細口乳首2人(6.1%),専用乳首19人(57.6%)普通乳首12人(36.4%)であった.4.授乳時間が30分未満であったのは,両側口唇口蓋裂では37.5%,片側口唇口蓋裂では36.0%であった.5.「吸えない」で困っていた母親は,専用乳首(N型)の50.0%,普通乳首の61.6%であり,細口乳首や専用乳首(P型)はいなかった. ビデオカメラの撮影はビン哺乳時の顔面筋の動きについて,健常児との違いやHotz床装着前後の違い,そして使用乳首との違いを明らかにすることを目的とした.方法は健常児1名,口唇顎裂児1名,口唇口蓋裂児1名のビン哺乳の状態を児の顔面を中心にビデオカメラで左右から撮影した.顔面筋の動きを見るために児の顔面に,2〜3mm角のテープを貼付した.連続9〜11回の吸啜運動から下顎を最大に下げた画像と上げた画像をコンピュータ処理し,18〜22枚取り出した.そして,その画像をもとに顔面に貼付したテープ間の距離5区間とその角度(5点)を測定し,下顎の上下運動間で対応のあるt検定を行った.その結果以下のことが明らかになった.1.健常児に比べてHotz床装着前の口唇顎裂児は患側の動きが大きく,健側の動きは健常児と似ていた.2.Hotz床装着後の口唇顎裂児は患側の口輪筋の動きが減少していた.3.Hotz床装着前の口唇口蓋裂児の患側は,健常児に比べて口輪筋の動きが活発であり,健側は口輪筋の動きが少なかった.4.Hotz床装着後の口唇口蓋裂児は患側,健側ともに動きが減少していた.5.吸啜時の顔面筋の動きは口蓋裂用乳首使用の場合は,普通乳首使用に比べて,患側,健側ともに少なく,Hotz床装着後は健常児よりも動きが少なかった.
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