研究概要 |
本研究の目的は,介護老人保健施設(以下,老健)を利用する高齢者が,自らのライフストーリーを他者に語ることを通してどのように自己を建て直していくのか,また残された人生にどのように意味づけしていくのかを明らかにし,高齢者の生涯発達を支援する看護ケアプログラムとしての口述ライフストーリーアプローチの可能性と課題について検討することである。 1.老健入所者とケアスタッフによる1対1ライフストーリー面談を3〜5回,8ペアが実施した結果は次のとおり。(1)ケアスタッフの認識の変化:《その人がよくわかる》,《その人への関心が高まる》,語り-聴くという関係性が成立した体験によって《自信が深まる》,ケアが《丁寧な関わりになる》,《他の高齢者に対する認識が変わる》,面談を通して《関わることの楽しさ・喜びを実感する》といった,高齢者およびケアに対する認識の変化がみられた。(2)入所者の発達課題達成感覚の変化:面談実施前後に「日本語版E.H.エリクソン発達課題達成尺度」を用いて評価した結果,エリクソンの8つの発達段階のうち「生殖性」と「同一性」については面接終了後の得点が有意に上昇していた。(3)ライフストーリー面談における相互作用の変化:1ペアの面談内容分析を行った結果,互いの言葉の反復や相づちを媒介にした相互作用へと次第に進展するとともに,ライフストーリーの内容は広さと深さを増していくことが示され,繰り返し語られる同一話題を聴き手がその都度受けとめることの重要性が示唆された。 2.老健入所者と研究者による1対1面談を5〜9回,9ペアが実施した。面談終了後にE.H.エリクソン発達課題達成尺度の評価を実施できたのは5名。8段階すべてにおいて面談前後の得点変化に有意差は認められず,ライフストーリー面談が入所者の発達課題達成感覚に及ぼす影響について統計的に検証することはできなかった。
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