研究概要 |
共役勾配法の前処理としては,並列性が高く,かつ収束加速性の良いものが必要であるが,この二つはしばしば矛盾する.この二つを兼ね備えているものとして,代表者らはマルチグリッド前処理を提唱し,その高い性能を実証してきた. 本研究では,これをさらに非構造格子まで拡張し,任意形状の問題や物理定数に異方性のある問題について研究を進めた.SA-AMG法は,問題行列から性質の似たサイズの小さい行列を生成し利用する効率の良い解法であるが,サイズの小さい行列を生成する際に領域分割境界を考慮して生成することにより異方性のある問題でも,効率よく,かつ高並列に実現できることを示した. またSA-AMG法の実装技術として,ベクトル化の研究を進めた.SA-AMG法内で大きな計算コストを占めるものとして三つの疎行列の積を求める計算が挙げられる.その疎行列積のベクトル性能を出すためには,代表的な疎行列のデータ構造を組み合わせ,三次元弾性体問題に対してはJDSとCRSの組み合わせた手法が最も高速に処理できることを示した.また大規模疎行列を伴う問題に対する実装技術として,分散疎行列の再分散・リオーダリングライブラリを作成し,評価を行った.このライブラリにより,疎行列問題に対して再分散やリオーダリングの処理を動的に、かつ簡易にできる枠組みを実現した. その他の並列実装技術の基盤的な研究として,有限サイズのmulti-master divisible load問題についての再分散スケジューリング問題について研究し,いくつかのパラメータを同定することにより,シミュレーションが実システムの振る舞いを正しく再現することを示した.関連する問題として,並列分子動力学のデータ分散の問題についても研究し,ノード間相互接続ネットワークのバンド幅やレーテンシが一様でない場合について,最適な並列分散を与える方法を求めた.これらの基本的な技術が,マルチグリッド法の多様なプラットフォームの上での並列実装にどのように生かせるかは今後の課題である.
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