研究概要 |
本年度は,GTTM(Generative Theory of Tonal Music)に基づいた音楽構造の解析システムのうち,前年度までに実装を終えたグルーピング構造解析部に続いて,拍節構造解析部を実装し,両者を併せてタイムスパン木の生成システムまでを完成した.拍節構造解析部においては,グルーピング構造解析と同様,規則の優先度を調節するパラメータを設けた.このシステムはパラメータの重さを決めるスイッチをもち,これを調節することによって拍節構造が決定される.これにより,XML形式で与えられた音楽の楽譜情報は(1)グルーピング構造解析(2)拍節構造解析を経て,(3)タイムスパン木の生成を行うことができる.タイムスパン木は楽譜の構造を視覚的に表示したもので,より重要な音が上位に来るように表示されるものである.この拍節構造解析部は国際会議International Computer Music Conference 2005において発表され,Best Paper Awardを獲得した. このパラメータ調節システムにおいては,正解データに近づくまでには人手によるアドホックなチューニングを行っていたが,前年度より遺伝アルゴリズムによる自動化システムも併せて試作した.今後このパラメータ自動検索システムを用いて楽曲のジャンルによる最適パラメータセットの獲得など,音楽の自動分類に関する研究への発展が期待できる. 一方,当初より現代的な文法理論として音楽規則の記述に用いたHPSGであるが,その寄与するところは部分的に限られる.これはこれまでの解析がタイムスパン木を中心にしたもので,グルーピングと拍節の解析に重点が置かれたためである.今後,和声の解析を行い,タイムスパン木と同様,延長的簡約木(Prolongational Reduction Tree)を生成する場面においてHPSGはより重要度を増すはずである.この課題は今後とも発展的研究テーマとして取り組んでいく予定である.
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