研究概要 |
本研究の目的は,それ自身はありふれた立体のように見える展示物が,棒を貫通させたり,液体を流したりなどの物理的な動きを加えることによって,見る人にあたかもあり得ないことが起こっているという印象を与える新しいタイプの錯視を解明することである.この目的のために,本年度は,イリュージョン立体の数理的特徴づけ,立体サンプルの設計と試作,イリュージョンの生じる動きの実演場面の電子データ化を行った.数理的特徴づけにおいては,昨年度に3組の平行線のみで描かれた図形が錯視効果が大きいことの発見とその理由づけを行ったのに続いて,本年度は絵から立体を構成する際の自由度の分布との関連を明らかにした.すなわち,立体の自由度の分布を,非自明な極小の自由度の部分構造とそれらの接続関係として階層的に表現することができた.この階層は,自由度が作るマトロイドの合併マトロイドとして定式化できる.そして,合併の際に残る自由度が正であり,かつできるだけ小さい場合に錯視の効果が大きいことがわかってきている.立体サンプルの設計と試作に関しては新たに10種類のイリュージョン立体を設計し,そのうち5個については立体模型を試作した.動きの実演場面の電子データ化に関しては,試作した立体の隙間の空間に棒を通す動きや,立体の斜面に玉を転がす動きなどを電子データとして蓄積した.これによって錯視の知覚実験の環境を整えることができた.なお,本研究で設計・試作したイリュージョン立体のいくつかは,東京大学コミュニケーションセンターで東大セレクショングッズの一つとして商品化する検討も始まっている.
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