研究概要 |
本研究の目的は,聴覚情報と自己運動感覚の相互作用,視覚情報により誘起される自己運動感覚に聴覚情報が与える影響について解明し,ユーザの動きに響応して視聴覚情報,自己運動感覚情報をも適切に提示する高精度・高感性3次元マルチモーダル空間提示システムの構築可能性について検討することである. 今年度は,これまで使用してきた音空間合成システムに昨年度購入したHead Mounted Display(以下,HMD)を統合し,視聴覚情報と体性感覚情報を提示したマルチモーダル環境下での自己運動感覚の変化を主観的,客観的に分析した. まず,ブランコ状の装置に実験参加者を座らせて前後運動を提示し,その動きと同期して視聴覚刺激を左右に移動させた時に知覚される自己運動方向について分析した.実験の結果,実験参加者に知覚された自己運動方向は,視覚情報単独,もしくは,聴覚情報単独で提示された際に生じる自己運動方向の変化のベクトル合成の形で表されるという興味深い知見が得られた. 更に,この作用が実験参加者の注意の変化により影響を受けるかについて検討を進めたところ,視覚情報に注意を向けることで,自己運動方向知覚に聴覚情報が与える影響が減少するという結果が得られた.視覚においては,非注意成分を背景とする方向に自己運動方向知覚がなされるという知見が過去に得られており,今回の結果は,マルチモーダル環境下ではあるものの,非注意成分の作用が減少するという,視覚における過去の知見とは異なる結果といえる. 以上得られた知見は,3次元マルチモーダル空間提示システムを構築する上で,視覚情報のみならず,聴覚情報も整合させて提示する必要性を示唆する結果ともいえる.これまでこのような観点から3次元マルチモーダル空間提示システムの構築がなされた例は皆無であり,本知見は極めて重要であると考える.
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