研究概要 |
スペルミジン(SPD),スペルミン(SPM)は各種中枢神経障害の病態において脳内濃度が上昇することのほか,細胞に対する様々なストレスに応答して誘導されることが報告されている。本研究では,神経細胞障害を引き起こすミクログリアの異常活性化におけるポリアミンの役割およびグリア細胞間でのポリアミン反応性の差異を解明する目的で,培養ミクログリアおよびアストロサイトに対するポリアミンの影響について検討した。 ミクログリアのLPS刺激によるNO産生は,血清存在下でSPDおよびSPM添加により濃度依存的に減少し,10μMでほぼ完全に抑制された。同濃度域のSPDやSPMの添加24時間後には,細胞のミトコンドリア活性は顕著に抑制された。SPM添加24時間後には細胞核の凝集とともに著明な細胞死が観察され,TUNEL染色に対して陽性で,DNA断片化も起こっていた。アストロサイトでは同濃度域のポリアミンは有意な変化を示さなかった。 このポリアミンの効果はポリアミン代謝酵素阻害剤であるアミノグアニジンだけでなく,Cys,N-アセチルCys,あるいは還元型グルタチオンによっても阻止された。細胞外ポリアミンの取り込み活性およびポリアミン代謝物である H_2O_2に対する感受性はミクログリアとアストロサイトの間に著明な差は認められなかったが,アクロレインに対する感受性はミクログリアの方が顕著に高かった。 ポリアミンは培養ミクログリアにアポトーシスを介した細胞死を誘発する。ミクログリアの細胞死にはポリアミン代謝産物のうち酸化的ストレスを発生するもの,特にアルデヒド類(アクロレイン)が関与する。培養アストロサイトはポリアミンによる細胞死に対し抵抗性であり,脳内における各種グリア細胞活性化の動静が,内在性ポリアミンにより制御されている可能性がある。ミクログリアの機能調節が神経変性疾患治療および悪化防止に重要な役割を果たすであろう。
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