研究概要 |
本研究課題において我々は,リポソーム同士が相互連結系を自発的に形成し高次構造を安定化するというニューロン様ナノチューブ・リポソームネットワークの創成を行った.細胞サイズリポソームは細胞と同等の内部空間および表面を提供し,かつ1μm以上の直径をもつため光学顕微鏡による直接観察が可能であることから,近年細胞内の生化学反応のモデルとして注目されている.我々は膜タンパク質の構造・機能を制御しえるナノ環境場を提供しえるリポソームの二分子膜構造および膜の流動性に起因する集合体構造の柔軟な構造変化能特に着目し,前年度までに細胞サイズリポソームへのガングリオシドの添加による脂質チューブネットワーク構造の構成について報告してきている.今回,中性リン脂質から細胞サイズリポソームを形成する際にコレステロールをリン脂質とのモル比が5-20%の割合で共存させることにより,リポソーム同士が中空の脂質ナノチューブによって相互連結したネットワーク構造が自発的に形成されること,またそのネットワーク構造がコレステロールを可溶化するシクロデキストリンの添加によってリポソーム群へと分解可能であることを蛍光顕微鏡による直接観察によって見出した.このネットワーク構造はガラスなど周囲の担体との付着により全体が緩く固定化され3次元方向に展開していることを,レーザー共焦点顕微鏡および透過型電子顕微鏡観察により明らかにした.最近,生体におけるコレステロールが,ニューロンの効率的なシナプス形成に必須であり,さらにシナプスの発達と安定性に影響することが報告されており,本研究により得られた知見が神経系におけるコレステロールの物理化学的役割に関して重要な情報を提供する可能性がある.このような細胞サイズリポソームの特性に着目した工学的手法は,生化学反応のモデル研究のみならず,多彩な生命科学分野への応用や新規バイオマテリアルの創出へと展開してゆくことが期待される.
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