研究課題
萌芽研究
タリウムは生体微量元素の中でも毒性が高く、さらに近年のハイテク産業などに伴い、工業的な需要が急増している。しかし、実際の生態毒性や体内動態に加え、地球環境中、なかでも生物圏における分布や挙動など、未解明な部分が多い元素といえる。本研究は、環境化学的に無視できない超微量元素であるタリウムによる生態汚染および環境動態の把握を目的とした。つまり、底質や粉じんといった環境試料に加え実際の野生生物体内における濃度を、マイクロウエーブ分解-誘導結合プラズマイオン源質量分析法にて測定し、解析を試みた。本年度は、前年に確立した分析法を用い、環境試料の拡大・充実に重点を置き、研究を遂行した。その結果、バイカルアザラシやオットセイなど、淡水および海棲の哺乳類においてもタリウムは検出され、その汚染が地球規模で拡大している可能性が明らかとなった。アジア地域で急速な発展を遂げるタイ・バンコク沖の柱状堆積物の分析は過去約50年の汚染経緯を示していると考えられ、解析の結果、経済活動が活発化した1980年代にタリウム濃度は僅かながら上昇し、その後、最近(1997年のバーツ暴落後と考えられる)になって濃度が減少する傾向が認められた。同じく、インドシナ半島における分布を、水系の高次捕食者であるライギョを用いてモニターした結果、タリウムはカンボジアで、タイやベトナムよりも高濃度が認められた。カンボジアでは首都プノンペンよりも観光地シェム・リアップとトンレ・サップ湖で高値が示された。また、ベトナムのメコンデルタでは、体内のタリウム濃度が雨期に高くなり、乾季に低くなる季節変動を示した。さらに、ベトナムではホーチミン市の運河で、極めて高レベルが検出され、アジアの都市における汚染が示唆された。また、東南アジアの沿岸棲海産魚を分析した結果、タリウムは肝臓に高レベルで蓄積し、筋肉の濃度は肥満度と共に上昇した。また、藻類を嗜好する種で高濃度になる傾向が認められた。最後に、東京都内の鉄道沿線の粉じんの濃度は低く、前年の「日本の都市部で低い」推測を支持する結果も認められた。
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Environmental Pollution 127
ページ: 83-97