研究概要 |
本研究では,山地流域規模で化学風化速度とその炭素固定機能を定量的に評価し,その酸性化による影響を評価することを目的とし,文献のレビューとともに実験的研究試験流域研究を行った。その結果,以下のことが明らかになった。 1.酸性化した森林試験流域における観測研究にもとづき,炭素循環において無機態での炭素固定量を定量化じた。また,その固定量は従来どおり夏季の雨季に大きい傾向を示した。 2.雨季の進行にともない流出経路がより浅層(地下水流出から一時的飽和地中流出へ)に変化(滞留時間の変化)するため,従来の単純な流出量(降水量の1次近似値)と一定濃度の積というモデル計算では求められないことが明らかになった。これには、降水量の増加にともなう酸性物質の累積とそれにともなう不十分な酸緩衝の影響を含んだ。このとき,無機炭素に変わり硫酸や硝酸などが流出した。 3.経年的な比較を行なうと、同じ流量に対しても,降水量の少ない年と多い年では無機炭素濃度が異なり,ベースとなる深層地下水の滞留時間が大きく変動することが示された。以上から,流域の先行降水量(1ヶ月及び1年)および流量に基づく,無機炭素濃度または滞留時間を定するモデルを構築中である。 4.有機態炭素の流出は,無機炭素に比べると小さかった。 5.個々の鉱物レベルでの化学風化速度は,流域での速度に比べて大きかった。 6.有機酸の影響として,同じpHで比較すると無機酸に比べて溶出速度が大きい傾向がみられた。すなわち,有機酸の存在する森林生態系内では,酸性雨に比べで塩基の溶出を促進していることを意味する。これは,酸緩衝能を上げる方向に作用することになり,結果として植物による炭素固定と同時に,風化による炭素固定も保持することを示唆した。
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