研究概要 |
今年度は,in vitro血液胎盤モデル(栄養芽細胞層モデル)として近年提案されている2つの手法のうち,特に改善された培養形におけるヒト胎盤由来の初代培養栄養芽細胞(cytotrophoblast)を用いるモデルを用いて,一連の検討を行った.すなわち,前年度の絨毛ガン細胞BeWo細胞を用いた検討と同じく,重金属や多環芳香族炭化水素などの代表的な環境汚染物質をモデル物質として,それらの膜透過性と蓄積性とを評価し,Bewo細胞でのデータとの比較を行った.初代培養栄養芽細胞の採取・単離と培養系作製については,2001年のHemmingsらの手法を用いた.細胞単離・精製は高橋・渡辺が行い,酒井が培養系を作製し,化学物質の透過実験を行った. まず,Hemmingsらの培養系については,連続した細胞膜を得るために単離精製したcytotrophoblast細胞を一旦凍結保存し4日ごとに3回に分けて半透膜培養基に播種するという煩雑な手法であった.しかしながら,報告されている通り,通常のcytotrophoblastの初代培養で顕著に起こる凝集を防ぎ,EGF等を含む培養液中で多核のsyncytiotrophoblast細胞へと分化し,12日培養でほぼ均一な細胞層を形成し,その後少なくとも10日間は培養下で形態学的に安定であった. この状況下で多環芳香族炭化水素であるベンゾ[a]ピレン(BaP)の受動・能動輸送を評価した.まず胎児側へのBaP原体としての透過はBeWo細胞膜の20-30%に比べて10%以下であった.胎児側からのBaP負荷では30%程度の透過が得られたため,胎児側毒性物質を母体側に排除する能動輸送メカニズムが多環芳香族類に働いていることがわかった.また,非誘導および誘導条件下でチトクロームP450 1A1/2活性を評価したところ,BeWo細胞と比較して初代培養ではおおよそ2倍程度の活性を持つことが明らかとなった.しかしながら,これらの逆輸送や代謝能は,肝臓や小腸と比較すると,一桁以上小さいもので,血液胎盤関門の環境汚染物質へのバリアーとして脆弱性を裏付けた.
|