研究概要 |
放射線によるゲノム障害に対する損傷応答や修復機構には,機能的蛋白質複合体が大きく関与している。その中でヒストンH2AXは,重要な役割をなすと推定されているが,それを解析するには,H2AXの機能的蛋白質複合体の網羅的解析が必要である。本研究では,ハーバード大学中谷が開発した機能的蛋白質複合体の精製法を応用し,tagを付与したH2AX蛋白質複合体を培養細胞,及びトランスジェニックマウスを用いて,生理的条件下でのH2AX機能的蛋白質複合体の精製法を開発し,その網羅的MS/MS解析を行った。今年度は,培養細胞からのH2AX複合体の精製とその機能解析について報告する。 HeLa培養細胞にクローニングしたマウスH2AXをレトロウイルスを用いて導入し,安定形質株を樹立した。この細胞株より核分画を調整し,核抽出分画およびクロマチン分画においてH2AX複合体を精製した。H2AXを標識することにより2重鎖切断後のH2AX複合体の動態を解析した。その結果,H2AX複合体はゲノム損傷部位で高度に動的な状態にあることが判明した。このH2AXの動態は,損傷後のリン酸化とは関係なくモノユビキチン化に依存しており,このユビキチン化は,TIP60ヒストン・アセチラーゼによるアセチル化により制御されていた。一方,MS解析の結果,ヒストンH2AXは損傷依存的にTIP60ヒストンアセチル化酵素に結合し,損傷に伴いアセチル化されることが判明した。このアセチル化は,TIP60ノックダウン細胞では抑制されることからTIP60ヒストンアセチル化酵素が損傷依存的にヒストンH2AXのアセチル化を制御していることが示された。この様にH2AX複合体の動態は,ゲノム損傷後のH2AXのアセチル化とモノユビキチン化により制御されており,今まで不明であったゲノム損傷初期のクロマチン・ダイナミズムと細胞応答に重要な役割をなすものであることが推定された。
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