研究概要 |
我々は,2001年にC_<60>分子から構成されるナノウィスカー(NW)を発見し,2002年にフラーレンナノウィスカー(FNW)の合成方法である液-液界面析出法(液-液法)を確立した。そこで,本研究は,液-液法を用いて,単結晶のフラーレンナノウィスカー(FNW)の合成とフラーレン誘導体を用いたNWを合成し,その構造と物性を評価することを目的としている。まず,C_<60>[C(COOC_2H_5)_2]分子からなるNW, C_<60>-C_<60>[C(COOC_2H_5)_2]2成分NW, C_<60>-C_<60>C_3H_7N2成分NWの合成に成功した。これらのFNWの特徴は,成長軸に平行にフラーレンのケージが最密充填するように配列することであり,FNWの形成には,フラーレンケージが直接的に接触することが必要であることが分かった。 単結晶C_<60>NWは,TEM内その場測定によって,約170GPaのヤング率を持っていることが分かった(筑波大学木塚研究室との共同研究)。C_<60>NWの大気中における分解温度は約450℃,真空中における分解温度は約600℃である。C_<60>NWを真空熱処理すると,非晶質のナノカーボンチューブに変わることを見出した。これをフラーレンシェルチューブ(FST)と名付けた。(η^2-C_<60>)Pt(PPh_3)_2を添加したC_<60>粉末を用いることにより,中空で多孔質なC_<60>ナノチューブ(C_<60>NT)とカプセル状のC_<60>針状結晶であるフラーレンカプセルができることを発見した。また,(η^2-C_<60>)Pt(PPh_3)_2を少量添加したC_<60>粉末を用いて作製したFNWを高温真空熱処理することによってもFSTが生じ,その比表面積は約400m^2g^<-1>,抵抗率は約0.04Ωcmとなった。さらに,フラーレンのピリジン飽和溶液とイソプロピルアルコール(IPA)の液-液界面析出法によって,緻密な壁構造を持つC_<60>NT, C_<70>NT, C_<60>-C_<70>2成分NTの合成に成功した。これらのナノチューブは,単結晶の壁構造を持っている。C_<70>NTを石英ガラスチューブに真空封入して1100℃で高温熱処理することにより,非晶質のナノカーボンチューブに変化することが分かった。この結果は,熱処理の条件を選択することにより,C_<70>が昇華することによって,C_<70>NTが分解し消失してしまうことが無いことを実証している。 以上のように,本研究は,フラーレン誘導体を用いた単結晶ナノ細線の合成に成功し,フラーレン単結晶ナノ細線の電気的,熱的性質を明らかにするとともに,フラーレン分子から成るナノチューブの合成を可能とする画期的な結果を達成した。
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