研究概要 |
日本において,グローバル社会へ適応した地球市民育成のための教育が求められている。そのためには,歴史的に深く関わるアジア地域において,教科書レベルでの歴史認識の共有化が渇望されている。そして,それは,少なくとも学習者の思考力を育成するという視点からの新しい授業観に立脚したものでなければならない。ヨーロッパにおいては,EU共通の教科書作りが進められるなど教科書を通じた歴史認識の共通化・共有化試みられている。そこには,授業観の変化を背景とした教科書観の転換がある。 本年度は,2年計画のこの研究の後期として,海外の情報収集と海外研究協力者との情報交換を中心におこなった。 その結果,「思考力」が,多様な観点(視点)から,分類・比較することにより特質を明確化するプロセスであること,歴史学習においては,時代を比較したり多様な他者の視座から歴史事象を分析する過程がすなわち歴史的思考力を育成している点が明らかどなり,日韓の歴史を題材にした思考力育成型の教材開発の基本視点が明確化された。特に複数の歴史観(歴史的解釈)を前提とした討論や学習者相互のコミュニケーション場面を意図的に設定した学習計画と教材(教科書)の重要性が明確化された。 日本にあっては,中学校教科書の変化が顕著である。相違点や共通点を明確化した討論による思考力の育成教材が開発されつつある(帝国書院版中学歴史分野教科書等)。研究メンバーは,教科書出版社との共同研究会を組織して,その開発に情報を提供したり,日本社会科教育学会全国研究大会において口頭による研究成果の報告を行うなど,本年度は,この研究の成果を還元すべく努力した。 なお,この研究によって,問題解決型歴史学習であってもそのスキルや能力面での系統的な評価基準を設けて行うことの必要性が明確となったが,この点については,今後の研究課題として残されている。
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