研究概要 |
本年度は本研究の最終年度である。研究目的に挙げた非可換調和振動子のスペクトル問題を取り扱った。一ノ瀬孝(金沢大学)若山正人(九州大学)の着想によって、スペクトルゼータ関数(自己共役作用素のベキの跡)の解析的性質や整数点での特殊値に関する研究が進んでいるが、本研究では、その特殊値について一つの結果を得た。従来の研究では、s=2におけるスペクトルゼータの特殊値は合流型Heun方程式の解で表示されていたが、これが楕円関数で表示されることを導いた。(楕円関数の独立変数には、非可換調和振動子の構造定数が入る。)証明の方法は具体的な計算に依存していて、特殊値全体の構造はまだ解明されていないが、この結果を導く方法は最近、木本一史(琉球大学)らによってs=3へと拡張され、一般性を持っていることがわかりつつある。また、証明の過程で4変数の超幾何関数(グラスマン(3,6)型)の余次元3の配置の積分表示がこの特殊値の表示に現れることを観察した。このように、過去2年の研究と合わせて、非可換調和振動子それ自体は超幾何的な決定的な構造を持たないにもかかわらず、ある種の母関数などは楕円関数のような超幾何的構造を持ち、統制可能な量であることが解明されつつある。本研究の萌芽的な側面は、『超幾何関数とは何か、超幾何でない関数とは何か』を追求する点にあったが、上の結果はこの問題に一つの端緒を与えていると考えられる。 この研究と合わせて、その他に、Mahler測度とそれに1パラメータの変形を施した積分量がやはり楕円関数を用いた表示を持つ(東京工業大学・黒川信重との共同研究)ことを示し、論文として発表した。
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