研究概要 |
1.平成16年度までは,容量結合支援誘導結合型高周波放電による高気圧反応性プラズマ発生装置を用いて,高気圧プラズマでヘキサメチルジシロキサンHMDSOを使用した球殻構造ナノスケールシリコン(Si)物質(Siフラーレン)形成実験を行ってきたが,HMDSO中の酸素,炭素が不純物として残留し,Siフラーレン形成が困難となる問題が発生したため,平成17年度は新しいSiフラーレン形成方法として,電子銃を利用したSiプラズマの生成を試み,それを用いた新規原子内包Siフラーレンの形成実験を行った. 2.直径14cmのステンレス製真空容器内部に電子銃を設置し,熱電子をSi固体に照射することでSiプラズマを生成する.Siプラズマは電子銃からの電子電流によって制御可能である. 3.本研究ではSiクラスターに内包させる物質として,ガス原子と金属原子を対象とした.ガス原子としてはアルゴン(Ar)を用い,装置中心に設置したヘリカルアンテナに高周波(13.56MHz)電力供給し誘導結合プラズマを生成することで,Siクラスターに作用させた.一方,金属原子としてはタングステン(W)を用い,ヘリカルアンテナ上部に設置したWグリッドへの負バイアス印加によるスパッタ効果を利用して,W原子をSiクラスターへ作用させた. 4.Arガスを導入せずにSiプラズマのみを用いて基板へ堆積した物質の質量分析を行ったところ,質量数が28の整数倍である純粋なSiクラスターの形成が確認された. 5.Arガスを導入した場合には,純粋なSiクラスターに加えて,質量数が28の整数倍から高質量側に12だけシフトした物質が質量数300〜600の範囲で検出された.この質量スペクトルのシフトは,質量数が12,40,68,96のいずれかの物質がSiクラスターに作用したためと考えられる.Arガス圧力の増加によりシフト成分が検出され,ヘリウムやクリプトンなど他の希ガスを用いた場合には質量数がシフトした物質は検出されなかったことから,Ar(質量数40)がSiクラスターに作用した結果であると考えている. 6.Arガスを導入して形成したSiクラスターの組成分析を行った結果,Ar成分の含有を示すスペクトルピークが検出され,この化学結合状態を解析することによって,自由空間中のArには見られないエネルギーの変化(ケミカルシフト)が観測された.これは純粋なSiクラスターが球殻構造を形成し,その中心部にAr原子を内包することで,Ar原子が周囲のSi原子から影響を受けるためと説明できる.以上の結果から,電子銃を利用したSiプラズマ中にArガスを導入しArプラズマを作用させることで,Ar原子内包Siフラーレンを形成できることが明らかとなった. 7.Si-W混合クラスター形成実験を行ったところクラスター内にWの存在が確認された.金属内包Siフラーレン形成に向けて実験を継続して行っている.
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