研究概要 |
結晶状態での熱による純化の機構解明 1 キラルテンプレートの合成および光学分割 2 ストレッカー反応による基質合成 3 DSC測定および熱異性化 4 種々の物理データの測定および結晶構造と熱異性化の相関 1 4を検討した結果次の事実が判明した。最初に,cis-2-amino-1-indanolとベンズアルデヒドとのストレッカー生成物で詳しく検討した。その結果,R体(熱不安定型)とS体(熱安定型)の混合物を結晶状態で加熱するとS体のみに異性化する。一方,ある種の溶媒に溶かしてしばらく放置すると,純粋な異性体はほぼ1対1の混合物に異性化する。コンピュータでエネルギーを計算した結果,溶液中では両異性体間にはほとんどエネルギー差がないが,両者の結晶構造では約8kcal/molもの差があることが判明し,実験事実を良く支持しており,これらの異性化(純化)が,固相特有のものであることが証明された。4軸X線回折の結果から,両異性体の結晶構造を比較すると分子内および分子間の水素結合のパターンが大きく異なり,結晶状態での熱安定性の差になっていることが判明した。他の十数種類の基質でも熱による純化を確認したが,それぞれの基質により両異性体の結晶構造のパターンが必ずしも類似しておらず,この機構をすべての基質に適用できるか否かは,今後検討を要す。 5 光学的に純粋な非天然型αアミノ酸の新規合成法の検討 まず,結晶状態で熱による純化で光学的に純粋な単一異性体に異性化した後,メタノリシスして光学的に純粋なαアミノカルボン酸メチルエステルに誘導した。その後加水素分解によりキラルテンプレートを切除し光学活性なαアミノ酸メチルエステルに誘導した。収率もまずまずで,新しいアミノ酸の不斉合成法の可能性を示したといえる。しかし,キラルテンプレートを切り離した後にラセミ化が起こり光学純度が低下している。今後,切り離しの順番や保護基導入条件の工夫などを行い,改良する必要がある。
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