研究概要 |
昨年度までに,ビナフチル基をもつリン酸イオンを対イオンとする長鎖アルキルアンモニウム塩を合成し,その液晶挙動について調べてきた。この化合物は,室温でも液晶性を示し,液晶相はカラムナー構造を有していることが明らかとなった。X線回折測定の結果,格子定数a=54.6Å,b=27.6Åの2次元レクタンギュラー格子をもつことが明らかとなった。さらに,単位胞内の分子数(Z)を見積もった結果,Z=4であり,格子の対称性がP2/aであることがわかった。さらに,旋光度測定により,カラム形成はビナフチル基のらせん状πスタッキングに起因している可能性が示唆された。本年度は,この仮説を分光学的手法を用いて検証した。まず,液晶化合物の溶液状態およびバルク状態における吸収スペクトル,蛍光スペクトル測定を行った。その結果,溶液サンプルの吸収スペクトルは,ナフタレンに由来する典型的なスペクトルであることがわかった。一方,バルク状態ではピークトップが数nm長波長シフトし,吸収端もかなり長波長側にシフトした。また,振動構造にも変化がみられた。これらの結果は,バルク状態においてナフタレン環の間で励起子相互作用が働いていることを示唆している。さらに,蛍光スペクトルにおいても最大発光波長のシフトが観察され,スペクトルの半値巾も若干狭くなった。以上の結果より,バルク状態においてビナフチル部位の電子構造が変化することがわかった。これは,ビナフチル基の一次元スタッキング(擬らせん共役高分子構造)を支持すると考える。
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