研究概要 |
平成15年度において,極低温で引張り試験を可能とする試験装置を試作し,その性能評価を行った。その結果,本装置を用いることで18K以下の極低温での引張り試験が可能であることを確認した。そこで平成16年度においては,同装置を用いて,具体的に各種高分子の極低温領域での引張り試験を開始した。まず,室温で柔軟な材料であるシリコーンゴムを取り上げて試験したところ,極低温域では極めて剛直であるだけでなく破断ひずみも小さく,ゴムとしての特性を失って脆い材料となることを見出した。したがって,当初予想したように通常のエントロピー弾性に立脚したゴムでは,極低温において,たとえばパッキン材料などへの利用が困難であることを確認した。一方,平成15年度において,ポリトリメチレンテレフタラート(PTT)の分子鎖軸方向の結晶弾性率が室温で2.59GPa,18Kにおいて5.6GPaであることを見出した。この知見に基づけば,研究課題名にあるように,PTTは液体ヘリウム温度においても柔軟な結晶を有し,強靭な高分子材料となりうる可能性が示唆されていた。そこでPTTの4倍延伸配向試料について極低温領域での引張り試験を行ったところ,弾性率4.7GPa,引張り強度270MPa,破断ひずみ7.2%の力学物性値を得た。これらの値はPTTが極低温域で強靭であることを示している。 上で述べたように本研究は当初計画を順調に遂行することに成功し,極低温高分子物性の領域に新たな知見を与えることができたのみならず,クライオジェニック材料の開発に際して有用な情報を提供することができた。今後本研究で確立した測定法をさらに発展させて各種高分子に展開するだけでなく,分子設計,合成に遡って,極低温域でのより一層強靭な高分子材料の創製を行っていく予定である。
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