研究概要 |
希薄気体流やマイクロ・ナノデバイスまわりの高クヌッセン数流れの解析には,分子レベルの計測法が要求される.分子の発光およびその消光作用を利用した感圧塗料(PSP)や感温塗料(TSP)による手法は高クヌッセン数流れの計測へ適用できる可能性を持つ.本年度は,前年度で構成した1Torr(133Pa)以下の低圧力域における圧力計測に最適なPSPを適用して,高クヌッセン数領域における気体流と固体表面の相互作用に関する解析を行った. 単段式完全再使用型宇宙往還機への搭載が有望視されているリニア型エアロスパイクノズルより噴出する高速流によるノズル壁面の圧力および温度計測をPSP/TSPの手法により行い,エアロスパイクノズルの性能を評価した.一例として,二次元流を仮定して設計されるリニア型エアロスパイクノズルに側壁を設置した場合の推力上昇の効果を確認するため,側壁付きノズルおよび側壁の無いノズルの両者において,スパイク面上の圧力分布をPSPにより測定し,両者の圧力分布の差異を調査した.その結果,側壁を設置することでスパイク面上の圧力が高くなり,推力上昇の効果が見込めることを明らかにした. PSPは酸素気体が固体表面上に及ぼす圧力の計測を目的として開発されたものであるが,PSPは固体表面に入射する酸素分子による発光分子の消光作用に基づいているため,PSPの発光強度は固体表面に入射する酸素分子数流束に依存している可能性がある.単位時間および単位面積あたりの表面上に作用する分子の運動量流束である圧力は分子数流束および速度の両者に依存するが,クヌッセン数の高い領域では固体表面近傍における流体の巨視的速度は0とならないため,分子数流束と圧力が必ずしも一対一で対応しない.本研究では,PSPの発光強度と分子数流束の関係を明らかにし,高クヌッセン数領域で重要となる分子数流束の計測法としてPSPが有用であることを示した.
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