研究概要 |
『高度経済成長期に建設された鋼構造高層建物がもつ耐震安全性が,現在の鋼構造高層建物が有する耐震安全性に対してどの程度に位置するのかを「量」として示すこと』を命題とし下記の4課題を遂行する.(1):高層鋼構造建物の耐震安全性を支配する諸因子を抽出し,それぞれの因子が過去30年間にわたってどのように変遷してきたかを明らかにする;(2):因子ごとに昔と現在の(技術)差を分析・定量化,ついでこれらを統合することによって,当時の高層鋼構造建物が有する耐震能力を予測する;(3):約30年前に建設された鋼構造建物の一部を実際に切り出して製作した試験体に対する載荷実験を実施し,(2)の予測の確からしさを検証する;(4):(2)〜(3)の知見を集積し,当時の高層鋼構造建物と同じ耐震性能を有する鋼構造物(部分)を再現する技術的可能性を明示する. 上記研究課題のうち(3)の一部と(4)を実施した. (3)に関連して,昨年に引き続き1980年に竣工した鋼構造建物の柱梁接合部の一部を譲り受け,これに対する繰返し載荷実験を実施した.載荷に先だって超音波探傷(UT)試験を,また載荷後は破断接合部を切り出してマクロ試験をそれぞれ実施した.昨年度の実験とは異なり,UT検査においてもほとんど欠陥は検出されず,また実験結果も変形能力に富む挙動を呈するなど,20数年を経た鋼構造物とは言え,溶接技能に応じてその性能が大きく異なることが明らかになった.(4)については,(3)で実施した接合部と同じ条件を有する接合部を製作して,再現性確認実験を実施した.UT試験からは欠陥がほとんど観察されず,また実験結果も(3)の実験結果より高い変形能力を示す結果となった.昨年度の検討結果とも併せ,(1)当時の接合部詳細は千差万別であって,現在のように標準化されていない,(2)接合部詳細や溶接技能によってその変形能力は大いに違いうる,(3)現在の材料と溶接技術を用いて当時の接合部性能を再現することは容易ではないという知見を得た.
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