研究概要 |
これまでに研究・開発されてきた数多くの機械材料は,用いられる環境・時間経過において経年変化を生じ,性能劣化や機能喪失および機械構造物の損傷・破壊といった問題を抱えている.一方,材料の機能・性能は材料を構成する原子・分子のもつ固有の特性のみならず,それらの配列,すなわち微細組織に強く依存することが明らかとなってきている.本研究では,地球上の多様な環境で試され,環境に適した最適構造・微細組織を有する自然界構造物-樹木,岩石,貝など-から機能・性能発現のための最適構造・微細組織に関する知見を得るために,自然界構造物の内部構造・微細組織をナノ・メゾレベルで観察し,多様な自然環境の下で形成あるいは成長した自然界構造物の優れた機能・性能とそれを発現させている最適構造・微細組織との関連を明らかにし,得られる知見から金属材料,セラミックス,半導体に対してさらなる新機能・高性能を発現させるための「最適構造・微細組織設計学」の創成を目的に行われた.本年度は,自然界構造物として貝殻(ハマグリ)に注目し,その内部構造・微細組織の観察を行った. ハマグリ貝の断面は,外層表面,内部層,内部表面の3層構造から構成されており,外層表面部は,アラゴナイト(CaCO_3)結晶が表面に対して45°の角度をなす交差ラメラ微細組織を有しいる.このような規則的な交差ラメラ組織を有することにより,外部応力に対して層状の積層面内で弾性的なずれが起こり,応力を緩和することができると考えられる.また,ビッカース硬度試験を用いて測定された破壊靱性値は,1.72MPa・m^<1/2>であり,シリコンの破壊靱性値よりも高い.交差ラメラ組織を有することでクラックの偏向効果によりクラックの伝播が抑制され,破壊靱性が高められていると考えられる.存命中のハマグリには,交差ラメラ組織の積層面間には有機物が存在するためにさらに破壊靱性が高いと予想される.
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