研究概要 |
研究代表者は若手研究(A)(No.14704007)で開発した保温保圧型深海生物捕獲飼育装置を用い、水深1,000〜2,500mに棲息する深海魚コンゴウアナゴを活きた状態で捕獲回収後、大気圧下で組織培養する事に成功している。この深海魚由来細胞は凍結保存にも成功し、世界に先駆けてようやっと深海多細胞生物の分子細胞生物学的な研究を本格的に進められる段階に達した。 地表で棲息する各種動物細胞株は、5から10MPa(1bar=0.1MPa,水深500〜1,000m程度)の圧力で増殖を停止させ、30MPaを超える加圧条件下では細胞骨格の脱重合をともなう形態の球形化が生じる。そして、130MPaを超える圧力条件で20分間以上加圧すると、ほぼすべての細胞が死滅する事を、これまでの研究から明らかとしている。本研究課題では、1)深海魚由来細胞株と地表動物由来細胞を、高圧下で長期間培養しながら観察実験できる顕微鏡観察装置を開発し、2)深海魚由来細胞株がなぜ高圧極限環境下でも増殖できるのかを、細胞骨格を中心とした研究を通じて解明する事を目的とした。 深海魚由来細胞は、150MPa,20minまでの加圧条件でも細胞が死ぬ事はなく、200MPa,20minの加圧条件で、すべての細胞の死滅を確認した。しかも、この深海魚由来細胞を20分間の各種圧力条件で加圧しても、細胞骨格の脱重合をともなう形態の球形化はほとんど生じなかった。地表生物由来の細胞株は5から10MPaの加圧条件で増殖停止をするが、この深海魚由来細胞は20MPaまで増殖が可能である事を見いだした。深海魚由来細胞は、加圧下においてM期が大気圧条件の4倍かかる事も明らかとした。一方、この深海魚由来細胞株における細胞骨格の研究から、アクチンおよびチューブリンのアミノ酸配列の変異が、これらの耐圧性の一部に寄与していることが考察された。
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