研究概要 |
貴金属薄膜上にC60分子を付着させると,下地貴金属からC60へと電子移動が起こる.これは貴金属薄膜上に伝導性C60単分子層が形成されたことによる.この貴金属薄膜上に製作した伝導性C60単分子層について,その抵抗値とそれに影響を与える諸要素についてAu,Cu,Agと仕事関数の異なる金属を用いて調べた.相対的に電子移動量を表す伝導電子の吸着子による散乱断面積は,Au,Cu,Agについて,それぞれ100,150,150A^2と求めることができた.電子移動数が下地金属の仕事関数に対して単純な依存性を示さないのは,C60のLUMOと下地金属のspバンドとの混成度合いの違いによる.さらに,下地金属のモーフォロジーをAFMを用いて調べた.その結果,下地金属薄膜中で,Cuにおいて結晶粒のサイズが最も小さいことが分かった.つまり,Cu薄膜においてはステップエッジが多数存在するため,ステップエッジに付着するC60の散乱断面積が小さく,C60が下地金属から十分な数の電子をもらっていないことが分かる. C60分子付着に伴う抵抗率の変化を測定することで,伝導性C60単分子層の抵抗値だけでなく,C60分子の摩擦現象についても調べることができる.多結晶貴金属薄膜中に付着したC60分子について,抵抗率の変化からその緩和時間を調べ,その逆数として定義できる摩擦係数をC60/Au,C60/Cu,C60/Ag界面に対して,それぞれ1.1x10^<10>,2.8x10^<10>,1.7x10^<10>sec^<-1>と求めた.これらの値は,C60/貴金属界面における電荷移動量と同じ大小関係を持っており,摩擦係数が電荷移動に深く関係していることが分かった.
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