研究概要 |
本研究課題で得られた成果は以下のとおりである. 1.P450酵素における活性阻害剤の結合様式の検討 ヘム酵素であるP450はバクテリアから高等動物まで広く分布し,種々の薬物の代謝において重要な役割を担っている.したがって,感染症の原因となる真菌類のP450の機能を選択的に阻害できれば抗菌剤として有望な薬剤の開発が期待できる.そこで本研究課題では結核菌とヒトのP450(CYP51)に対する活性阻害剤であるいくつかのアゾール化合物について,その活性阻害様式を共鳴ラマンスペクトルやEPRを用いることで,構造化学的に検討した.その結果,アゾール環の置換基の立体障害とその疎水性度を制御することによって結核菌のP450のみ選択的に結合するアゾール化合物の分子設計が可能であることを示した. 2.ヘム酸化酵素中間体におけるラジカル位置の制御 ヘムを含む酸化酵素であるペルオキシターゼ類は多くの動植物に存在し,種々の酸化反応を触媒している.これらの酵素はその反応中間体としてラジカル種を形成するが,そのラジカルの位置については基質の大きさに依存して異なることが知られている.つまり,小さな基質の場合は蛋白質に埋め込まれたポルフィリン環上に,大きな基質の場合は蛋白質表面に露出したアミノ酸上に形成される.われわれは既に小さな基質に対する酸化酵素である西洋わさびペルオキシターゼ(HRP)について,蛋白質表面に芳香族アミノ酸を導入することで、ラジカル位置をポルフィリン環上から導入した芳香族アミノ酸に移動できることを報告してきた.今回,その移動したラジカル種による活性を検証するために,野生型のHRPでは反応性が低い立体障害の大きな基質を用いて検討したところ,蛋白質表面にラジカル種を有する変異体ではその活性が数十倍に増大し,ラジカル位置の制御によってヘム酵素の基質特異性が制御できることが示された.
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