研究概要 |
摘芽作業の省力化が可能なことから近年、無側枝性キクが注目を集め、その栽培法が検討されている。本研究の目的は、腋芽の成長・休眠の制御技術である。無側枝性キクとして知られている'岩の白扇'などは栽培時期の温度によって腋芽の発生が大きく異なることが知られている。即ち高温(30℃付近)で栽培した場合は腋芽の発生がないが、低温(20-25℃)で栽培した場合は、腋芽の発生がみられる。このことは無側枝性の原因遺伝子が温度感受性変異体であり、高温になると腋芽形成能を失うために無側枝性を示すことを示唆している。一方、腋芽形成能を失った突然変異体には、トマトのLateral suppressor (Ls)が知られている。そこで無側枝性の原因遺伝子は、トマトLSに対するキクのホモログであり、その遺伝子の温度感受性変異が原因であると推定し、その構造からこの点を明らかにしようと考えた。キクの野生型Lsと無側枝性型lsのcDNAをクローニングし、それらの塩基配列およびアミノ酸配列を明らかにした。これまでに報告されているLsのアミノ酸配列を検索して、保存されているアミノ酸配列を選び、その配列を基にキクのLsホモログのcDNAを単離した。その結果、2種類の遺伝子グループが同定され、DgLAS1,DgLAS2と名付けた。さらにそれらの中にはそれぞれ6種類の遺伝子が同定された。それぞれ数カ所のアミノ酸残基の違いが見いだされたが、野生型Lsと無側枝性型lsの違いを特定することはできなかった。また、生育温度によるDgLAS1,DgLAS2の発現を解析したが、発現に大きな差は見られなかった。このことは、腋芽形成能の変異はLsの発現より上流ではなく、原因遺伝子はLsの下流であることを示唆している。このことを明らかにするためには転写因子であるLsの標的遺伝子を同定する必要があるが、それは今後の課題である。
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