1.カイコの培養細胞BmNにおいて、細胞の増殖速度に及ぼす温度の影響について調べた。その結果、培養細胞においても昆虫の発育で知られている有効積算温度の法則が成立することが推測された。すなわち、増殖零点温度より上において、細胞の増殖速度と温度との比例関係が認められた。 2.カイコ4齢幼虫の体重増加を指標にして温度との関係を調べ、培養細胞と比較した結果、培養細胞の低温時の発育零点温度は生体より高く、高温の限界温度は生体より低いことが明らかになった。このことから、細胞の温度反応特性は細胞の種類によって異なること、あるいは生体では細胞・組織の相互作用が温度反応性に関与することが考えられた。一方、カイコでも品種によって反応性が異なり、高温の限界温度に関しては鐘音と大造に著しい差が観察された。しかし、低温の発育零点は2品種で同じであった。 3.細胞増殖曲線を基に、培養細胞の温度反応性を詳細に調べた結果、最適温度は30℃付近にあり、低温限界は18℃、高温限界は33℃付近と推定された。しかし、このような温度反応性は初期の細胞濃度などによって変化しており、細胞の温度反応性には種々の要因が関与することが推測された。 4.高温における細胞増殖の低下並びに停止要因を解析する目的で、細胞の生死、形態変化、MTT法で示される細胞代謝活性、DNA合成能などへの温度の影響を解析した。その結果、これらの反応性は細胞増殖性とほぼ一致していた。しかし細胞が増殖を停止した温度においても、生存細胞が存在することが示唆された。
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