研究概要 |
近年、我が国において海綿状脳症(狂牛病)に罹患した牛が15頭確認され、プリオン病発症機序の解明および治療・予防法の開発が緊急課題となっている。一方、申請者は、ラット肝臓から進化的に高度に保存された新規なタンパク質を世界に先駆けて発見した(Oka T et al.,J.Biol.Chem.270,30060-30067(1995))。過塩素酸によって抽出される本タンパク質をPerchloric acid Soluble Protein(PSP)と名付けた。PSPの一次構造は、大腸菌からヒトに至るまで高度に保存されていることが明らかにされた。また、驚くべきことに、PSPの立体構造は2個のαヘリックスと6個のβシートからなり、2個のαヘリックスと4個のβシートからなる異常プリオンタンパク質とαヘリックスとβシートの配置も含めて極めて類似した立体構造を示した。更に、Proteinase Kや熱に対する耐性も異常プリオンタンパク質と同様の性質を示したことから、PSPは少なくとも清浄化酵素の基質として異常プリオンタンパク質のモデルとなり得るとの着想に至った。PSPを基質として異常プリオンタンパク質を分解する酵素をスクリーニングした結果、ある種の放線菌が分泌する酵素(E77)がPSPを分解することを見いだした。更にE77はスクレイピー由来やCJD由来の異常プリオンを分解することを明らかにした。E77を精製して性質を明らかにした結果、分子量は約20,000でアルカリ性セリンプロテアーゼの性質を示した。E77のアミノ酸配列は、ASP1と高い相同性を示し、ASP1はE77のプレカーサーであることが示唆された。E77の至適温度は60℃、至適pHは9以上であり、E77は最適条件でスクレイピー由来の異常プリオンを3分で分解した。
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