研究概要 |
本研究は、ストレスタンパク質70(Hsp70)のC末端領域の一次配列に存在する生物種に特有な可変領域の生物学的意義について明らかにし、生物応答における多様性創出の鍵となる分子機構の原理を確立することを目的としている。今年度は、進化系統的に隔たった生物種(マウス,植物ホウレンソウ,乳酸菌,大腸菌)のHsp70をクローニングし、各Hsp70が貪食細胞などの抗原提示細胞にどのように認識されるか、ならびに自然免疫系のパターン認識受容体であるCD40表面抗原とHsp70との相互作用を解析した。 1)異種生物からのHsp70遺伝子のクローニングとその生産 植物ホウレンソウ、乳酸菌、大腸菌のHsp70遺伝子をクローニングした。ホウレンソウの葉を凍結粉砕しmRNAを抽出、逆転写後PCRにてホウレンソウhsc70遺伝子を増幅した。また、嫌気培養した乳酸菌からゲノムDNAを抽出後PCRにてdnak遺伝子を増幅した。それぞれのPCR産物を大腸菌発現用のpETベクターに挿入し目的のHsp70タンパク質を得た。ホウレンソウHsc70の発現効率は低く、コドン使用頻度を考慮してベクターを改良する必要のあることがわかった。 2)免疫細胞と各種Hsp70との相互作用 マウスHsp72が結合するB細胞系の株化リンパ球P388D1に対する各種Hsp70の結合を調べたところ、C末端可変領域の相同性が高いホウレンソウHsc70は結合したが、乳酸菌および大腸菌DnaKは結合しなかった。一方、マウス腹腔マクロファージに対しては、マウスHsp72と大腸菌DnaKは結合したが、ホウレンソウHsc70と乳酸菌DnaKは結合しなかった。この結果から、免疫細胞には、Hsp70のC末端相同性を識別する受容体や宿主にとって危険であるか安全であるかを見極めるための受容体が複数存在している可能性を指摘した。 3)CD40表面抗原とHsp70のC末端可変領域との相互作用 B細胞やマクロファージに存在するパターン認識受容体であるCD40抗原とマウスHsp72や大腸菌DnaKの相互作用を検討したところ、いずれのHsp70もCD40とは結合せず、マウスCD40のトランスフェクタントからのケモカインRANTESの産生は見られなかった。
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