研究概要 |
現在,細胞診は臨床において経験により培われた主観的な判断により行われている.そのため,細胞診は再現性などの重要な問題点があると考えられており,形態学的な診断はその大部分において細胞診は敬遠され,組織病理診が中心となって行なわれているのが現状である.しかしながら,穿刺吸引細胞診による乳腺,甲状腺及び前立腺癌の診断や膵管ブラッシングによる膵癌の診断,子宮頸癌の擦過細胞診,体腔液細胞診などの分野においては必要不可欠な診断法として重要視されており,今後更なる診断能の向上させていくために,従来とは異なった客観的な評価法の確立が求められている.そこで本研究では細胞固有の硬さ(弾性率)に着目して腫瘍細胞の鑑別を行うことを検討した.計測対象として,ヒト上皮性腫瘍細胞由来の胃癌培養細胞株のAGS,MKN45,GCIY,KatoIII及びヒト舌癌細胞由来の扁平上皮癌培養細胞株のHSC-3,HSC-4,さらにヒト非上皮性腫瘍細胞由来で線維肉腫のHT1080(東北大学加齢医学研究所・附属医用細胞資源センターより供給)を用い,それら腫瘍細胞のヤング率を原子間力顕微鏡により計測した.その結果,各腫瘍細胞の平均ヤング率は,AGSで5.5±0.74kPa,MKN45で4.3±2.01kPa,GCIYで6.3±4.34kPa,KatoIIIで4.7±1.78kPa,HT1080で14.5±3.00kPa,HSC-3で2.0±0.72kPa,HSC-4で1.5±0.73kPaであった.従来,扁平上皮癌細胞は他の細胞に比べ,堅牢であるとされてきたが,今回の我々の計測結果では,必ずしも扁平上皮癌が腺癌に比べて硬いわけではなく,むしろ腺癌細胞や非上皮性腫瘍細胞の繊維肉腫由来腫瘍細胞の方が硬いことが証明された.今回我々の検討によって初めて腫瘍細胞の種類によって弾性率が異なることが証明された.原子間力顕微鏡を用いたヤング率の解析による細胞の鑑別は,画期的な検討と思われ,今後細胞を鑑別するにあたり,新たな方向性を導くことができたと考えられる.
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