研究概要 |
分娩・出生直後の母児から採取した毛髪サンプル中のニコチン濃度の測定し,妊娠前,妊娠中と分娩前後での喫煙に関するアンケート調査結果と比較検討した.毛髪中のニコチンの測定はPichiniらのHPCL法を一部改変し,少量の毛髪サンプルで測定可能となった.測定対象数は母児13組26名,喫煙している成人5名,非喫煙の成人3名であった.喫煙成人5名中4名からニコチンが検出され,ニコチン濃度は3.07〜9.64ng/mg hairであった.非喫煙成人では3名中1名でニコチンが検出され0.88ng/mg hairであった.対象の母13名中4名の毛髪から痕跡程度のニコチンが検出されたが,いずれも測定限界未満であった.児の毛髪からは1例もニコチンは検出されなかった.母13名中の妊娠前の喫煙例は1名,妊娠中の喫煙は0名あった.喫煙例は全例1日10本以上吸っていた.家族内の喫煙は妊娠前5名,妊娠中5名で,家族内の喫煙も全例1日10本以上であった.妊娠中に家族内で分煙されていなかった1名と分煙されていない職場で働いていた3名の計4名に妊娠中の受動喫煙が示唆された.分娩前3日間の喫煙は1名が1本を吸ったのみであった.妊娠中の受動喫煙の有無と出生体重,出生時頭囲に有意差を認めなかった.1カ月健診時の体重増加率と分娩後の家族の喫煙の有無,妊娠中の受動喫煙の有無と有意な関係を認めなかった.母の毛髪からニコチンが検出された4名中1名が妊娠中の受動喫煙例であった.これらの結果,中でも児の毛髪からはニコチンが検出されなかったことから,本研究対象の母の喫煙暴露の程度は低く,胎児の暴露は更に低かったと考えられ,児の精神運動発達,行動障害との関係は明らかでなかった.一方,妊娠中暴露がないと思われた母3名,非喫煙成人1名で痕跡程度のニコチンが検出され,無意識の受動喫煙について注意が必要と考えられた.
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