研究概要 |
糖尿病では合併症が極めて重要な臨床的問題である。一般に糖尿病合併症に共通する病態の一つは基底膜の異常である。先に生体共焦点顕微鏡を用いた観察により,糖尿病症例で角膜上皮基底膜部の散乱光の強度が糖尿病網膜症の重症化に従い増強することを見いだした。実際の臨床応用にあたっては,生体共焦点顕微鏡よりも簡便に角膜基底膜部での光散乱のみを測定する機器の開発が必要であると考え,角膜上皮表面,基底膜部,および内皮面に相当すると考えられる波形を得る組織散乱光検出機器(light scattering detection system, LSDS)を試作した。現装置では散乱光強度とその散乱光強度の測定点(測定用レンズ)からの距離しか記録されないため,測定された散乱光強度が角膜のどの部位由来の散乱光強度かを同定するのが困難であった。そのため、従来の記録データに加えて測定中の組織画像を同時に記録できるように改良し,上皮基底膜部位の散乱光強度を確定した。LSDS共焦点スペキュラー顕微鏡の測定再現性の評価をした。細隙灯顕微鏡検査にて異常所見を認めない健常人10例10眼の角膜上皮基底膜部位の散乱光強度を連続5回,同症例を隔日で3回測定したところ,得られた結果には再現性を認めた。従来の生体共焦点顕微鏡と試作した共焦点スペキュラー顕微鏡の両機で50例50眼の角膜上皮基底膜部位の散乱光強度を測定した結果,両機による測定値は有意な相関を認めた(相関係数0.75,p<0.001)。さらに,共焦点スペキュラー顕微鏡を用いて糖尿病および非糖尿病患者の角膜を観察し,糖尿病患者の群で上皮基底膜部位の散乱光強度の有意な増強を認めた(p<0.001,student's t-test)。
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