研究課題
若手研究(A)
高分子物質のガラス状態では、温度、水分状態などの環境が変化したとき、対応した安定な状態に即座に移れず、時間経過とともに物性が大きく変化することが知られている。近年、木材においても同様の現象が認められ、主に粘弾性的について検討がなされている。このような非平衡状態にある木材の粘弾性変化には、細胞壁内の微細構造が深く関与していると考えられる。このような状態を科学的に理解することは、木質系材料を使用・加工する際に極めて重要なことである。そこで本研究では、様々な非平衡状態を与えた木材について、粘弾性の変化挙動、寸法、IRスペクトル、細孔分布などの測定によって得られる微細構造の変化に関する情報との関連を検討した。その結果、一例として、以下に示すことを明らかにした。(1)比例限度以下の応力によっては、非平衡状態におけるような微細構造の変化は認められない。(2)粘弾性および寸法変化の測定によれば、一旦乾燥した木材は生材と同じ状態に戻ることはないことが明らかとなった。このことから、生材は特有の不可逆的な構造を有するといえる。(3)乾燥によって生じた不安定性を多く残した木材には、分子オーダーの空隙に富むという結果を得た。このことから、不安定な構造を有する木材は、微細構造に緩んだ状態を有しており、大きな自由体積を持つことを示した。以上の結果から、非平衡状態において流動性が増加するのは、木材の微細構造にひずみが生じることによって、より安定な状態に比べて、分子がルーズな構造を有しているためであると考察している。なお、本研究で得られた成果は、非平衡状態における微細構造変化が粘弾性挙動に及ぼす影響について、これまでに得られていない知見を広範に明らかにしたものであり、学術的ならびに実用的にも高い価値を有するものと考えている。
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