本研究では、紙および布の姿を偏角分光画像法に基づいて正確に記録し、再現する画像システムの基盤技術に関して研究をおこなった。特に紙や布の凹凸テクスチャが陰影情報として可視化される斜光線照明ジオメトリに着目し、低解像度の分光画像と高解像度の多方向陰影画像とを合成することにより、高解像度の偏角分光画像を効率的に計測する方法を開発した。 光沢や質感が異なる8種類の洋紙、和紙について、284種類のジオメトリでの偏角分光反射特性を解析した結果、物体色成分と光源色成分との線形結合で近似可能であることを明らかにした。光源色成分、物体色成分をTorrance-Sparrow、Lambertの反射モデルの線形結合によりモデル化した結果、誤差3.8%の精度で近似できることを示した。提案モデルを用いて、少数ジオメトリの測定値から偏角反射特性を推定した結果、表面が粗い紙の場合は、4ジオメトリでの測定値から284ジオメトリで測定した場合と同等の推定精度が得られることを明らかにした。特に斜光線照明のジオメトリでは、物体光成分が支配的であり、二色性反射モデルの特殊ケースとして取り扱うことができるため、単一のジオメトリで分光画像計測とその強度変調により、効率的な偏角分光画像撮影が可能であることを示した。 以上の解析に基づき、和紙と布の偏角分光画像撮影をおこなった。ジオメトリ45/0での低解像度分光画像を、ジオメートリ81/0、87/0での高解像度モノクロ画像強度で変調することにより、ジオメトリ81/0、87/0での高解像度分光画像を生成した。2種類の照明光源(D65、A)下でのカラー画像を再現した結果、正確な色情報とともに高解像度のテクスチャ情報が表現されており、従来法よりも少ないデータ量により、試料の質感が精細に記録・再現されており、提案手法の有効性が示された。
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