研究概要 |
従来,人間-コンピュータインタラクションの分野ではコンピュータが人と同様に礼儀正しく振る舞うことが必要であると主張されてきた.本研究では,礼儀正しさを社会的文脈に応じた適切な振る舞いと定義し,社会的文脈と非言語行動の関係について定量的に検討を行った.特に,(1)要求表現における非言語的表出およびその理解に関する認知的プロセスの解明と,(2)議論場面における非言語行動の同調傾向に関して重点的に研究を行った.これらの研究成果はロボット,擬人化エージェントなどの社会的インタフェースを構築する上で重要なモデルとなりうる. (1)社会的文脈にはさまざまなものがあるが,ここではBrown and Levinson (1987)らも重視した,社会的距離,行為の受け手の行為者に対する力,行為が相手にかける負荷の三つの変数に焦点を絞り非言語的表出について検討した.ここで,社会的距離(D)はいわゆるウチとソトの関係,力(P)は上下の関係,負荷(I)は要求内容に相当する.まず,これらの社会的文脈が要求表現の非言語的表出に及ぼす影響を,待遇表現の熟達者を被験者とした実験で検討した.さらに,評価実験を行い,これらの非言語表現の理解における認知的プロセスを検討した.その結果,要求表現において,三つの社会的文脈を反映した各非言語ストラテジーは極めて類似していることが示された.さらに,これらの非言語的行動には,婉曲的傾向と親密的傾向の二つの側面が存在していることが示唆された. (2)議論場面においては要求表現とは異なり,対話者同士が協力しあって目標を達成するという状況依存的性質がある.このような場面では対話者同士の非言語行動が類似する同調傾向とよばれる現象が見られる.本研究では同調傾向が対話評価に及ぼす影響を検討した.
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