研究概要 |
本研究は遅発性神経細胞死を呈する海馬CA1領域でのNMDA受容体サブユニットNR2AならびにNR2Bのチロシンリン酸化に対するGqタンパク質共役型代謝型グルタミン酸受容体拮抗薬の効果と神経細胞死との関連を検討するために企画された. 本年度はラット一過性(15分)全脳虚血によって引き起こされるNMDA受容体サブユニットNR2AおよびNR2Bのチロシンリン酸化増大に及ぼすmGluR5アンタゴニスト2-methyl-6-(phenylethynyl)-pyridine(MPEP)の効果を前年度に引き続き検討した. 虚血30分前に脳室内に30nmolのMPEPを投与した結果,再潅流後1時間目に増大したNR2Aのチロシンリン酸化は減少する一方,NR2Bのチロシンリン酸化増大はMPEP投与によりなんら影響を受けない事を明らかにした.また,再潅流24時間目のNR2AおよびNR2Bのチロシンリン酸化は各々偽手術群の5.7倍および2.4倍であり,これら両サブユニットのチロシンリン酸化増大はMPEP投与により変化しなかった.尚,MPEP投与は偽手術群のNR2サブユニットチロシンリン酸化に影響を与えなかった.さらに,培養海馬神経細胞で(RS)-2-chloro-5-hydroxyphenylglycineによるmGluR5の刺激は非受容体型チロシンキナーゼSrcの活性化を誘発することを明らかにした. 以上本年度の研究結果より,一過性全脳虚血後再潅流早期に海馬CA1領域で起こるNR2Aのチロシンリン酸化増大にmGluR5が関与し,かつ遅発性神経細胞死の発現に再潅流後早期のNR2Aチロシンリン酸化増大が重要な役割を果たしている可能性を示した.
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