研究概要 |
卵成熟や初期発生過程では,不活性な母性mRNAの翻訳がポリA鎖の付加により活性化されることなどから、時空間的な翻訳制御が重要な役割を果たしていると考えられている。また近年、父親のゲノム情報を卵子に受け渡すためだけに存在すると考えられてきた精子にも多くのRNAが存在することが報告され、"精子由来"RNAの胚発生への関与が示唆されている。 本研究では,精子特異的な卵子活性化因子として報告されたPLCzetaに着目し,PLCzeta RNAを利用した卵子活性化の最適条件および新たな卵子活性化法について検討した。まず我々は,PLCzeta RNAをin vitro転写で合成しマウス卵子に注入すると,濃い濃度では卵子が異常な形態を示すが,適切な濃度では100%近い卵子で活性化がおきることを明らかにした。また,N末端110アミノ酸を欠失したPLCzetaΔNもRNAの濃度を1000倍にすると,PLCzetaの活性化速度には劣るもののほぼ100%の卵子が活性化することも見出した。PLCzeta, PLCzetaΔN RNAはともに活性化された卵子の約20%を胚盤胞期まで単為発生させられたため,次に,より発生への悪影響が少ないことが明らかであったPLCzetaΔN RNAについて顕微授精時の卵子活性化法として応用できるか検討した。PLCzetaΔN RNAで活性化させた卵子に半数体円形精子細胞を注入した結果,5%と率は低いものの3匹の産仔を得ることにも成功した。このことから,PLCzetaΔN RNAはマウスにおいて卵子活性化法として使用できることが示唆された。
|