研究概要 |
生体内部を可視化する超音波診断装置の性能向上を目指して,生体内部ならびに骨内を伝搬する超音波を精密に解析することを目的とした.さらに診断装置の更なる安全化のために,超音波によって生体内部に発生する熱量を推定し,内部温度の上昇値を推測した.解析手法にはパルス波伝搬を簡便に行える時間領域差分法(Finite Difference Time Domain : FDTD法)と熱伝導方程式法(Heat Conduction Equation : HCE法)を組み合わせたFDTD-HCE法を用いた.さらに従来,計算時間と使用メモリの問題から実行が困難であった3次元モデルの解析を,ネットワークを介し接続されたPCクラスタを使用して可能とした.そしてアルゴリズムを最適化して計算時間を短縮し,PC8台で680%の高速化率を得た. 本年度の研究はFDTD-HCE法の3次元モデルの構築と解析ならびに生体模擬ファントムによる実測値との比較を行った.そして,現状の超音波診断装置に使用されている電子フォーカス型(収束型)の超音波送波プローブを計算機上で構築し,生体組織ならびに骨内の音波伝搬と温度分布の推定を行った. 3次元モデルの構築と解析ならびに実測値との比較では,周波数1MHz,超音波強度1.12W/cm^2,連続波の条件で行った.実測データに対し,2次元解析では温度差が2度,3次元解析では温度差が0.3度と実験結果と解析結果が良く一致し,解析手法の正確さと3次元モデルの有効性が示された.次に電子フォーカス型の超音波送波プローブによる生体内部の温度上昇の解析では収束型プローブによりさせられた音波は平面型に比べ,同じ強度では温度の上昇が一部のみで回りに大きな影響を与えないことが分かった.さらに周波数2MHz,超音波強度0.72W/cm^2,連続波の条件で収束域近傍に骨があると想定した場合,骨内部の温度が2度上昇することが分かり,さらに焦点域の温度も0.2度上昇した.そして,現行の超音波診断装置の安全指標である度0.72W/cm^2でパルス波送信での条件で生体内部の温度上昇の解析を行った.送信繰り返し周波数(PRF)を現行機の10倍以上の速さである400kHzに設定しても温度上昇はわずか0.0004度であり,現行機種の安全性が確認された.
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