研究概要 |
昨年度の研究において,視覚および聴覚刺激を利用することによってLocomotor Respiratory Coupling (LRC)を誘発するソフトウエアを自転車エルゴメーターに附属する形で開発し,その有用性の検討を行った。そして健常成人10名を対象に,換気性代謝閾値(Ventilatory Threshold : VT)レベルでの定負荷ペダリング運動時において,自由呼吸での運動,2:1リズム呼吸での運動,3:1リズム呼吸での運動をそれぞれ別々に行い,運動中のLRC発生率,酸素摂取量(VO2)換気効率(VO2/VE),心拍数等を比較検討した結果,自由呼吸での運動に比べ,2:1,3:1リズム呼吸による運動は有意にLRCの発生率,換気効率が高く,心拍数が低いという結果が得られ,本研究で開発したシステムプログラムの有用性が明かとなった. 今年度は前年度の開発したシステムプログラムソフトを慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者に対して応用し,臨床での有用性を検討することを目的とした。 COPD患者6名(GOLD stage II〜III)に対し,10分間の定負荷運動負荷テストを本システムを用いない場合と用いた場合についてそれぞれ行った。その結果,本システムを用いて呼吸リズムを一定にした方が,用いずに自由な呼吸で行わせるよりも運動中の動脈血酸素飽和度(SpO2)は有意に運動中高い値を示した。また心拍数は本システムを用いた方が用いない場合よりも低い傾向を示し,更に運動中の呼吸困難感(Borg Scale)は本システムを用いた方が有意に低かった。 次に,COPD患者6名に対して,本システムを用いた場合と,用いない場合において一定負荷強度における運動耐容能を測定した。その結果,本システムを用いた方が,用いない場合に比べ,有意に運動継続時間が長く,運動中のSpO2が高く,更に呼吸困難感が低かった。 以上の結果から,COPD患者に対して自転車エルゴメーターを用いた運動負荷トレーニングを実施する場合には,本システムの様な呼吸リズムを意図的に制御することで,運動中のSpO2の低下を抑制でき,また運動継続時間の延長や呼吸困難感を軽減出来る可能性が示唆された。
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