研究概要 |
筋損傷を繰り返し経験すると、骨格筋は同一の刺激では損傷を起こさなくなる。この現象は保護効果と呼ばれているが、その生理学的メカニズムはわかっていない。本研究の目的は、筋損傷時の保護効果のメカニズムを明らかにすることであり、細胞内においてCa^<2+>を制御している筋小胞体に着目して実験を行った。これまでの研究で,「運動誘発性」筋損傷時,筋小胞体のCa^<2+>-ATPaseタンパクに変化はなく,筋小胞体膜に性質の変化が生じる可能性について明らかにしてきた.そしてこの筋小胞体膜の性質の変化が保護効果に関与している可能性,すなわち,1回の損傷刺激によって膜が変化しにくくなり筋小胞体からのCa^<2+>を漏洩しなくなることが明らかとなった.平成16〜17年度は筋小胞体膜の変化を引き起こすメカニズムとしてヒートショックプロテイン(HSP)に焦点を当て検討した.運動による筋損傷刺激によって筋内のHSP発現量は増大するが,損傷の程度とHSP発現量との間には相関関係が見られなかった.しかしながら,塩酸ブピバカインによる薬理的損傷を引き起こすと損傷の程度とHSP発現量との間に,相関関係が観察された.塩酸ブピバカインによる筋損傷は運動による損傷と同様のメカニズムで生じるが,より大きな筋損傷を引き起こすことが出来る.したがって,塩酸ブピバカインにより得られた知見は,運動誘発性筋損傷時でもHSP発現による保護効果の関与の可能性があるが,損傷程度が小さいために,その変化を検出できていないことを示唆している.
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