研究概要 |
不活動期間後には,同一運動負荷に対する昇圧応答が減少するが,それを起こすメカニズムは明らかではない.運動時には,運動を開始させる中枢からの情報(セントラルコマンド)と筋からの情報(運動昇圧反射)との2つの神経入力が交感神経性の循環応答を起こす.本研究では,不活動による筋の萎縮によって,活動筋から惹起する運動昇圧反射が減弱し,その結果運動時の昇圧応答が減少する,という仮説を検討した. ラット(7〜8週齢,オス)の左脚を1週間ギプス固定した.その後,麻酔下にて動静脈および気道にカテーテルを導入し,左右の下腿三頭筋を露出した後,除脳した.筋の機械受容器を刺激して運動昇圧反射を起こすため,30秒間下腿三頭筋を伸張した.ギプス固定した左脚の筋重量は1.0±0.1g(平均±SE)であり,対照の右脚の1.4±0.1gよりも有意に小さい値であった.筋の伸張(229±20g)は,萎縮脚では13±3mmHgの昇圧を起こし,これは対照脚の4±2mmHgよりも有意に大きいものであった。刺激の大きさを下腿三頭筋の重量で除して,相対的に等しい張力に対する応答を比較しても,萎縮脚刺激による応答は,対照脚のそれよりも有意に大きいものであった.このことから,廃用性萎縮が機械受容器を介する運動昇圧反射の大きさを大きくすることが明らかになった.したがって,機械受容器を介した運動昇圧反射は,不活動期間後に見られる昇圧応答の減少を説明できないものと結論された. また,本研究ではラットの腎臓交感神経活動を記録した.セントラルコマンドおよび昇圧反射を入力した際には,血圧および心拍数の増加と同時に腎臓交感神経活動の増加が見られた.また,これは腎血流の減少を伴っていた.上記ラットでもこれらの計測を試みたが,ギプス固定の影響か,ラットの状態が悪化してしまい,残念ながら良好な記録を得ることが困難であった.
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