研究概要 |
運動神経損傷時の修復に際して,受容体と結合した神経栄養因子の増加と受容体のリン酸化が生じ,さらに,その下流には数種類のシグナル伝達経路があることが多くの研究者によって報告されている. 本研究の目的は,運動による運動神経細胞の適応においては,どのようなシグナル伝達経路が関与しているのかということについて実験動物を用いて確認することにある. 平成15年度は,Wistar系ラットにトレッドミルによる一過性のランニングを速度30m/分で60分間行わせた際に,脊髄腰膨大部において受容体のリン酸化が生じるか否かを検討した結果,運動前に比較して運動後にリン酸化されたTrkA受容体が増加しており,さらには運動時間依存的にリン酸化されたTrkA受容体が増加する傾向にあった. 平成16年度は,他の神経栄養因子のシグナル伝達経路とさらに下流の伝達経路を調べるために,Wistar系ラットにトレッドミルによる一過性のランニングを速度30m/分で60分間行わせた.その結果,運動前に比較して運動後にリン酸化されたTrkB受容体,さらに下流ではリン酸化されたMAPK(mitogen activated protein kinase), CREB(cyclic-AMP response-element-binding protein)が増加する傾向にあった. したがって,Trk→MAPK→CREBというシグナル伝達が,運動による脊髄神経細胞の適応を引き起こす経路の一つである可能性が考えられた.
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