研究概要 |
現在,温暖化の植生分布への影響が懸念されている.特に山岳環境である日本では標高傾度にそった植生が変化するが,温暖化は標高傾度にそった植生分布を変化させる可能性がある.申請者は長野県乗鞍岳において,植生分布に対する温暖化の影響予測を行うため,以下の3課題について研究を行った. (1)鞍岳の標高傾度にそった植生調査:各植物種の分布域を明らかにするため,標高800mから山頂付近の3000mまで植生調査を行った.その結果,山地林,亜高山帯針葉樹林,ハイマツ林などのような植生区分に対応して木本植物は変化した.しかし草本植物の変化の仕方は木本植物とは対応していなかった. (2)標高傾度にそったダケカンバの肥大成長に及ぼす気象の影響:森林限界に位置する分布上限(標高2500m)では,夏期の気温が高い年に成長の増加がみられた.この結果は森林限界は冷涼な環境であるためと思われる.逆に分布下限(標高1600m)では,夏期の気温が高く,そして降水量の少ない年に成長が減少していた.これらの結果から温暖化は分布下限の個体に乾燥ストレスをもたらす可能性があることを示唆した. (3)標高傾度にそった水分生理学的研究:分布下限ほど乾燥ストレスが高いかどうかを,木本4種について検討した.測定した水分生理に関するパラメータは,葉の水ポテンシャル,気孔密度・気孔サイズ・気孔コンダクタンス・そして水ストレスと相関のある葉の炭素安定同位体比である.その結果,夜明け前の水ポテンシャルと気孔コンダクタンスの日最大値は標高が高い方が高い値を示す傾向は見られた.しかし,気孔サイズや気孔密度は標高傾度にそってほとんど変化しなかった。以上の結果から,分布下限ほど水分ストレスが高い傾向が認められたが,葉の形態(気孔密度など)に影響するほど高くはないと考えられた.
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