研究概要 |
研究最終年度では,湿原を含む流域構造の変化(特に河川内横断構造物による河川ネットワーク分断の実態解明)とそれに起因する水生生物の生息地ポテンシャルの変化に関連する研究を行った。研究の具体的な推進手順は以下の通りである。1)データベースと空間解析モジュールの開発:釧路湿原及び釧路川流域を対象とし,流域分断ポリゴンデータ,河川内横断構造物,水生生物(主に国内の絶滅危惧種を含む淡水魚類全体)等をデジタル化し,さらにGISの処理モジュールを開発した。収集データは全てGIS環境で操作可能とし,ESRIのshpファイル及びGRID形式に統一して研究最終成果物とした。2)空間情報解析及びマッピング:釧路湿原を含む流域全体における水生生物の生息環境を評価し,その経年変化を抽出する目的で,潜在生息適地モデル(Predictive Habitat Model)を開発し,釧路側流域と北海道全体に適応した。実際のモデルの処理過程は次の通りである。水辺の国勢調査における魚類捕獲情報(情報有りor無し)と捕獲地点における生息環境情報(水質=公共用水域水質データ・気象・流域構造・流域分断状況等)を統合する線形回帰モデルを個々の選択種(例えば絶滅危惧種等)毎に決定する。次に推定対象河川における生息地の環境パラメターをデータベースと連動させ,新たな環境アセス候補地点において生息地ポテンシャルを再計算する。第一段階では,現在の生息環境と考えられる2002年データをパラメターとして用い「現在の生物生息状況」を予測した。次にインプットデータを1977年データとし,過去に遡り「25年前の生息地状態」を逆推定した。最終段階においてこの二つの時代(2002年と1977年)の差を同一地点で計算する事により,2次期の間の生物生息ポテンシャル変化の時空間的な解析を可能とした。 本システムではモデルの適応時において,対象種毎に,生息ポテンシャルに有意に影響する環境パラメターとその寄与率が統計的に有意に決定される。これらの「生息地再生に必要となる生息地環境パラメター」と「寄与率」は釧路湿原を含む釧路川全流域の対象地点で全て定量化可能である。つまり実際の湿原再生を考慮した場合,対象種を限定した後の再生シナリオとして,再生候補地点と復元パラメター決定さらにその必要改善量の自動計算が実現する。本研究成果を用いることにより,自然再生における具体的効果とそれに必要なコストのバランスをより正確に把握することが可能となり,高い実効性とスピーディな湿原再生プランの策定に大きく貢献するものである。
|