研究概要 |
ホルムアルデヒド(FA)が原因の一つであると指摘されている化学物質過敏症(CS)の場合、患者本人も気づかないような極めて低濃度の曝露でも影響が現れることが示唆されている(本研究計画は疾病の定義づけを目的としたものではないので、極めて低濃度の化学物質に反応する病態について、広い範囲で含めたものをCSと表現する)。CSは一般的にアレルギー反応の一種のように考えられがちだが、その主症状は不定愁訴であり脳神経系に由来すると思われる。そこで本年度は、CSの発症と症状の双方に脳神経系が関わると仮説をたて、環境基準値とほぼ同等である低濃度のFAを断続的かつ長期間曝露し、脳の遺伝子発現変動を解析した。慢性ガス曝露チャンバーを用い、FAの低濃度長期間曝露をマウスに対して行い、脳および免疫系組織(脾臓、胸腺)をサンプリングした。大脳新皮質、海馬、線条体、視床下部からRNAを抽出し、mRNA発現量をサーマルサイクラーを用い半定量的RT-PCR法により半定量を開始した。不定愁訴に直結していると想定される神経伝達物質に着目し、グルタミン酸受容体(ε1,ε2,GluR1,GluRB)、セロトニン受容体(5-HT_<1A>)、ドーパミン受容体(D_1,D_2)、γ-アミノ酪酸受容体(GABA_A,GABA_B)、トリプトファン水酸化酵素、グルタミン酸脱炭酸酵素を、さらにCSには免疫系と神経系の相互作用が密接に関わると考えられることから、神経系と免疫系に共通する情報伝達物質として、IFN-γ、IL-2、IL-4、IL-10 mRNAをとりあげ、realtime RT PCRの定量を行った。その結果、低濃度ホルムアルデヒド曝露により測定した神経伝達物質受容体関連mRNA群の多くが変動することが明らかとなった。また、末梢血中、脾臓中の免疫系には大きな変動がみられないにもかかわらず、脳内のIL関連のmRNAも曝露により変動することがわかった。
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